目の中には水晶体といって、カメラのレンズに相当する部分があります。この水晶体の構造は、生卵の白身が詰まった水風船のようなものです。
この生卵の白身の部分が、長年体温や紫外線などにさらされ、ゆで卵のように白く・固くなっていくことを白内障と言います。
ゆで卵を生卵に戻す薬がないように、白内障を治す薬はなく、治すためには手術治療となります。
年齢(加齢)が原因であることがほとんどですが、他にステロイド薬など薬によるものや、アトピー性皮膚炎に伴うもの、別の目の病気に併発するものなどもあります。
白内障は、どなたにでも発症する病気です。
治療は手術になりますが、日本で年間に約160万件の白内障手術が行われており、すべての外科手術の中で最も多く行われている、いわば身近な手術となっています。
白内障の症状は、目がぼやける、かすむというものが代表的ですが、他にも明るいところでまぶしい、対向車のヘッドライトがギラギラまぶしい、メガネの度数が合わない、細かいものが見えない、ものがだぶって見える、などの症状が出ることもあります。白内障かどうかは、ご本人の自覚症状からだけでは判断できません。他の病気が隠れていることもあります。見え方がおかしいなと感じたら、一度当院にお越しください。
白内障は手遅れになる病気ではないので、急いで手術を受ける必要はありません。視力がいくつまで低下したから手術を受けなければいけない、ということもありません。
代表的な白内障の症状は「かすみ」と「まぶしさ」です。これらが生活上、不便を感じるようになったときが、手術を受ける時期になります。
これは、お一人お一人の生活パターンによって異なってきます。細かいものを見ることが多い方や、車を運転する機会が多い方は、早めに手術を受けられるとよいでしょう。
逆に、部屋の中で過ごすことが多く、あまり細かい字などを読んだりすることがない方は、手術を急ぐ必要はありません。
検査したときの視力結果が良くても、実は屋外ではまぶしくて見づらいとか、ものがだぶってしまい生活に支障がある、といったこともあります。たとえ視力が良くても何らかの不自由を感じておられるのなら、ご相談ください。
白内障の手術は、「白内障を取り」「代わりの眼内レンズを入れる」手術です。
白内障の手術は年々進化し、とても安全で結果の良い手術になっています。白内障手術では、ほぼ全例で眼内レンズが使用されます。
数年前までは、眼内レンズにはそれ程種類はなく、どの眼内レンズを選択すればよいのか、あまり考える必要はありませんでした。
しかし近年、いろいろな種類の眼内レンズが利用可能になりました。単焦点眼内レンズに加えて、多焦点眼内レンズ、乱視矯正眼内レンズなどです。
どの種類のレンズを選ぶか、そして単焦点眼内レンズならどこにピントを合わせるのか、多焦点眼内レンズの場合はいくつかタイプがあるうちのどれを選ぶのか、患者さんご自分で決めて頂かなくてはいけません。
そのためには、当院では、眼内レンズの種類とそれぞれの特徴について良く説明し、今後の人生の見え方にできるだけ納得いただけるよう、眼内レンズの決定のお手伝いをさせていただきます。
手術後、非常にまれでありますが、重い合併症が起こることがあります。
術後早期に目を擦るなどして、手術のキズから眼球の中に細菌が入り、感染症を起こす「術後眼内炎」はそのうちでも最も重い合併症で、時に失明に陥ることがあります。
最近の手術ではその頻度は0.03%未満とされています。
術後数日間はよく見えていたのに、急にまた白内障になったかのようにカスミが出てきて、目の奥に鈍痛を感じ、手術直後よりひどい充血が出てきた、など「赤い」「痛い」「見えない」が同時に強く起こった時は、すぐに対処(手術)する必要があります。
細菌にはMRSAと呼ばれるもののように通常の抗生物質に抵抗するものが現れています。新しい抗生物質が出ると新しい抵抗性の細菌(耐性菌)が出るというイタチごっこの状態で、この合併症を完全にゼロにするのが難しい事情がここにあります。
眼内レンズは機能の面から、単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズに大きく分かれます。
若いときの人間の目は、水晶体の厚さや形を変化させることによって、遠くから近くまでピントを合わせることができます。老眼になると、ピントを合わせる能力が衰えてきて、ピントを合わせづらくなり、最終的には一つの距離にしかピントが合わなくなります。
眼内レンズは、若い目の水晶体のように、目の中で厚さや形を変えることができません。ですので、白内障手術で水晶体を単焦点眼内レンズに取り替えると、老眼の状態と同じように、一つの距離にしかピントが合わなくなります。
それにたいして、多焦点眼内レンズは形状を工夫することにより、二つ以上の距離(遠方と近方、遠方と中間距離と近方など)にピントが合うようになっています。
一つの距離にピントを合わせる眼内レンズです。ピントを合わせたい距離を予め決めておき、手術を行います。ピントを合わせた距離以外のところは、メガネでピントを調整します。
●遠くをメガネ無しで見たい場合は、遠くの距離にピントの合う度数の眼内レンズを選び、手術をします。手元は裸眼では見えませんので、術後に老眼鏡を作って、近方にピントを合わせるようにします。
●近くをメガネ無しで見たい場合は、手元にピントの合う度数の眼内レンズを選び、手術をします。遠くは裸眼では見えませんので、近くがよく見えるではなく近くしか見えなくなると考えた方が自然です。物を読む時以外は1日中メガネが必要となり、術後早期ににメガネ(近視のメガネと同じです)を作って、遠方にピントを合わせるようにします。
●中間距離をメガネなしで見たい場合というのもあり、これは家の中での生活が多い方の設定で、テレビの字幕など、家の中での生活に不自由がないよう1mくらいにピントを合わせるものです。この場合、外出時は遠く用のメガネ、物を読むときは老眼鏡、の両方が必要になることがあります。
近くを見たいといっても、スマートフォンとコンピュータでは距離が違いますし、また患者さんによっては楽譜をハッキリ見たいとか、料理の時の手元をしっかり見たいというような方もおられます。手術前に、ご自身の希望をお伝え下さい。それに応じて眼内レンズの度数を調整します。
また、遠くをハッキリ見たいといっても、車の運転と、3m 先のテレビでは距離が違ってきます。
ですので、普段の生活の中で、メガネなしでの見え方を どれくらいの距離に合わせることを希望するか.
ご自分の希望を手術前に決め、私どもにお伝え頂くことが大事です。
ただし、片眼だけ手術をするのか、両眼手術をするのかで、度数合わせが変わってくることがあります。片眼手術の場合は、手術をしない方の眼とのバランスが重要だからです。
多焦点眼内レンズでは、外から目に入ってきた光を距離別に振り分けることによって、二つ以上の距離にピントが合うようになっています。大きく分けて、二箇所にピントが合うもの(遠方と近方、遠方と中間距離など)、三箇所にピントが合うもの(遠方と中間距離と近方)があります。
●遠方というのは、5m より遠くのことです。
●中間距離は、60cmから1mくらいのことです。
●近方は手元の30~50cmのことです。どの距離に手元のピントを合わせるかによって、眼内レンズの選び方が変わってきます。ご本人の希望や生活のパターンを考えて決めて下さい。例えば、スマートフォンなどの細かい字を見たければ30cmを、コンピュータの作業が多ければ40cm の距離を選びます。
多焦点眼内レンズは、白内障手術後にあまりメガネを使いたくない方、メガネを掛けたり外したりしたくない方に向いています。ただし、手術後に全員がメガネを必要としなくなるわけではなく、約8~9 割の方がメガネ無しで生活されています。遠視・近視はある程度コントロールできますが、生まれ持った乱視は完全に無くすことができないからです。
多焦点眼内レンズは誰にでも合うわけではありません。
白内障以外の病気、例えば緑内障や網膜の病気がある方は、多焦点眼内レンズの適応になりません。
また、非常に細かいものを見るような職業の方にも向いていません。
なぜなら、単焦点眼内レンズが一箇所に焦点を合わせているのに対して、多焦点眼内レンズは複数の箇所に光を振り分けますので、見え方のシャープさが少し劣ります。とくに、暗いところでくっきり感がやや落ちます。
また、暗い場所でライトを見ると、光の輪やまぶしさを感じることもあります。夜間の車の運転には注意が必要です。
このため多焦点眼内レンズの見え方に慣れるまでに、手術後、しばらく時間がかかるといわれています。
多焦点眼内レンズの手術は通常の健康保険でカバーされません。
選定療養という枠組みで行われていますので、一部を患者さん本人に負担して頂く必要があります。
通常の白内障手術の部分は健康保険で支払いされますが、それにプラスされる部分(多焦点眼内レンズと単焦点眼内レンズの差額など)を患者さんに負担して頂きます。負担額は眼内レンズの種類によって違い、通常の白内障手術代金プラス 25 ~ 30万円ほどです。
多焦点眼内レンズは高価なレンズですが、値段が高いから良く見えるというものではりません。手術を受けてみたけれども、どうも合わなくて、単焦点眼内レンズに入れ換えるということもあります。
どうしても多焦点の見え方に慣れることができずに、単焦点眼内レンズに入れ替えをご希望された場合の手術は全額自費診療となります。
当院では、白内障術後早期の眼内レンズの入れ替え手術は35万円(税抜)で承ります。
白内障手術は濁った水晶体を取り除くことによって、曇っていた見え方を改善します。それに加えて、眼内レンズの種類や度数をきちんと選択することにより、元々あった近視を軽くしたり、ずっと悩んでいた乱視を治したりすることができます。つまり、白内障手術は「新しい目を手に入れるチャンス」ということができます。
メガネやコンタクトレンズと異なり、眼内レンズはいったん目の中に入れてしまえば簡単に取り替えることはできません。
手術前に目の状態をきちんと調べ、患者様ご自身のライフスタイルにあった眼内レンズを選択できるよう、丁寧にご説明させていただきます。